AX 文学 - 徒然日記
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ジュール・ラフォルグ


 月光

 とてもあの星には住まへないと思ふと、

 まるで鳩尾でも、どやされたやうだ。


 ああ、月は美しいな、あのしんとした中空を

 夏八月の良夜に乗つきつて。


 帆柱なんぞはうつちやつて、ふらりふらりと

 転けてゆく、雲のまつ黒けの崖下を。

 
 ああ、往つてみたいな、無闇に往つてみたいな、

 尊いあすこの水盤へ乗つてみたなら嘸よかろう。

 
 お月さまは盲だ、険難至極な灯台だ。

 哀れなる哉、イカルスが幾人も来ておつこちる。


 自殺者の眼のやうに、死つてござるお月さま、

 吾等疲労者大会の議長の席につきたまへ。


 冷たい頭脳で遠慮無く散々貶して貰ひませう、
 
 とても癒らぬ官僚主義で、つるつる禿げた凡骨を。

 
 これが最後の睡眠剤か、どれひとつその丸薬を

 どうか世間の石頭へも分けて呑ませてやりたいものだ。


 どりや上着を甲斐甲斐しくも、きりりと羽織つたお月さま、

 愛の冷えきつた世でござる、何卒箙の矢をとつて、


 よつぴき引いて、ひようと放ち、この世に住まふ翅無しの

 人間どもの心中に情けの種を植ゑたまへ。


 大洪水に洗はれて、さつぱりとしたお月さま、

 解熱の効あるその光、今夜ここへもさして来て、

 
 寝台に一杯漲れよ、さるほどに小生も

 この浮き世から手を洗ふべく候。
                   上田 敏
 

 



 中学の時、図書室でたまたま発見したこの詩と出会い、惹かれ、ジュール・ラフォルグという詩人を知った。

 それまで詩というものは、自己陶酔の極みでしかなく、その押しつけがましさに嫌悪感を持っていたのだが(←これは全て私の偏った見方でしかないけど)この詩を読んで、それまでの固定観念が一掃された。

 神経質で不安定だった中学の頃の自分には、この詩が持つ古き良き時代を思わせるノンビリとした雰囲気と、古めかしい表現が妙に惹き付けられたのだった。

 それ以後、ラフォルグという人物にも興味を持ち、少しでも名前が載ってると、図書室や古本屋で貪るように読んだものだった。(中学高校のお小遣いでは、本代まで捻出できず・・・)

 ラフォルグは1860年8月16日に生まれ1887年8月20日に早世したフランスの詩人である。

 私が持っている本は、詩の本が2冊、吉田健一氏翻訳の「ラフォルグ抄」というラフォルグにしては珍しく長編の小説が入った本一冊のみである。
 
 因みに↓こちらが昭和50年に1200冊限定で出版された物と、その製造番号がスタンプで押されている最後のページです。




そして、↓こちらが平成元年に再度装丁を新しくして出された初版物。



 吉田健一氏の素晴らしい翻訳からなる「ラフォルグ抄」は、大学の頃手に入れた物だったが、それまで違う翻訳家の詩で慣れてた私には、独特の文章に悩まされ、手に入れてから数年本棚の肥やしになった後、気まぐれで読み出した時にやみつきになった本である。

この本の帯は吉田健一氏が寄せ書きを書いています。それを読んでいるだけで、とても思い入れの強い作品だったことが伺えます。

 ・・・現代の救ひをラフォルグに求める事は出来ない。それはヴァレリイに待つべきである。併しながら、私が言ふ近代、卽ち十九世紀の終わりから第一次世界大戦後に至るまでの、未曾有の文化的な頽廢期が今日まだ充分に現實である時、私はその近代の、我々凡てに親しい特徴や惡徳、---近代の空ろさを、半ば豫見的にせよ、ラフォルグ程見事に抒情し得た詩人を他に知らないのである。
吉田健一


 ラフォルグという人は、シェークスピアの「ハムレット」に傾倒し、自ら文壇のハムレットと名乗り憚らなかったそうである。

 大変有名な小説を、再度自分なりの解釈で構築するという大胆な行動に及び、それが「ラフォルグ抄」の中に入っているのだが、私はこちらの「ハムレット」の方がシェークスピアのそれより、ずっと人間臭さに溢れていて、洒落も通じる、親近感を感じる男性に描かれていて好きだ。

 いつか、ラフォルグと吉田健一氏共作からなる「ハムレット」もブログに書けたらいいなぁ・・・と思うのだが。


 
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脱獄王を読んで・・・

 先月の初め頃だったと思いますが・・・

「ザ!世界仰天ニュース」という番組で「白鳥由栄」さんという方を知りまして、大変興味を持ってしまって、父に付き添っている間、この方の「脱獄王」という本をずっと読んでいました。


           

 
 この方、4回も脱獄に成功した脱獄王と呼ばれている男性なのですが


 中には脱獄不可能と言われている「網走刑務所」も含まれてまして、全く奇想天外な方法で、誰も傷つけることなく脱出してしまった方なんです。


 私が心を打たれたのは、脱獄の理由が「自由になる為の脱獄ではなく、刑務所で不当な扱いを受けたための抗議としての脱獄」だった事でした。


 (それが理由に、人として正当な扱いをする監獄では、模範囚として勤めています。)


 ただ一回、最後に死刑を宣告された時の脱獄を除き、後の3回は人間以下の扱いを受けた事に対する、人としての尊厳を訴える為の行為だったんです。 

 なので、脱獄不可能と言われている刑務所を無事脱出しても、自主して戻ってきちゃうんですね(^-^;A


(脱走中に警官に職質されて、その警官が煙草を下さっただけで、「実は自分は白鳥由栄です。貴方が逮捕して手柄にして下さい」
と言ってしまったり。)

詳細が書ききれなかったので・・詳しくはこちらをクリックです


この本を読みまして、投獄されたのは人を殺めたという許されない罪ではありますが、それ以降この人が送った一生を思いますと、どーしてこんな事に・・と胸が痛くなってしまうんです。(唯一の救いは、病気により病院で亡くなられた事でしょうか・・。)



 逃げる度に、戻る刑務所での扱いは想像を絶する待遇になり、生きて存在している事さえ奇跡に近いほどなのに、扱いが悪ければ悪いほど、屈することなく、その怒りを脱獄へのパワーに変えて頑張った人。


 仇は必ず返す反面、恩にも必ず報いる律儀な性格・・・。


 自分に足りない、或いは昔は持ってたのに、いつの間にか諦めが勝って忘れてしまった反骨精神を思い出させてくれた人でもありました。

 そして、この本があったから、向こうで頑張れた気もします。
 父の具合が良い日に、この話を聞かせましたら、「一寸似てるぞ・・」と言われて、喜んで良いのか複雑な気持ちはしましたが・・・(⌒-⌒;





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